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「春の小川」はなぜ消えたか 武蔵野台地の河川と水路

 古地図の集成と地理・地形学についての燻し銀のラインナップが揃う之潮から、『「春の小川」はなぜ消えたか』(田原光泰著)が刊行されました。現在では、その大部分が暗渠となりまた下水道幹線として利用されている渋谷川(古川)の、歴史と現状を詳細に実地調査した成果がまとめられ、巻末には折り込み地図まで付されています。これで¥1,800+税は、超お買い得でしょう。
 街歩きマニア必携です。
 そして考古学者にとっても...都市部において、現行の地形図からは復元が困難な旧地形・水系を知る手がかりとなるだけでなく、その水路の利用の歴史を知る上でも、大変役に立つ一冊です。現在の代々木駅、新宿御苑付近の渋谷川の水源地域は、近年、新宿駅南口再開発や道路工事にともなって発掘が続き、後期旧石器~縄文時代の遺跡の所在が明らかになってきたところです。いま現在、現地では道路上の起伏でしか追えない旧地形が、この本によってよく分かります。

 またそれとは別に、近・現代の下水道利用と暗渠化の以前の、用水路としての利用についての記述もまた重要です。武蔵野台地東部、つまり現在の東京都心部~山手地域は、西郊よりも深く複雑な谷が多く刻まれていますが、これは台地全体の基盤地形の形成に深く関わっています。多摩川下流部の氾濫原~河口部として形成された台地東部の基盤は礫層ではなく砂~シルト層であり、その後の海面低下期に下刻が進んで深い谷となっているのです。
 そして同時に、かつての多摩川の上~中流部、すなわち扇状地帯として形成された台地西部に対して、旧扇状地端部からの湧水に恵まれ、深い谷には水量が豊富な川が流れていました。このため、弥生時代以降も連綿と集落遺跡が残され、中世においても武蔵南部の拠点的地域の一角をなすのです。江戸城が、旧国府ではなく、現在の場所に築かれたのは当然の帰結と言えるでしょう。
 対して、台地西部では多摩川沿いの低地を除くと水利に事欠き、低地と湧水が得られる崖線沿いを除き長らく荒蕪地が広がる状況が続きます。この状況は、縄文時代以降、なんと1万年近くも続くのです。
 この状況を一変させたのが、玉川上水の通水です。多摩川上流部の水を台地のもっとも標高が高い地区を通して、そこから北へ南へと水を落とすことができるようにするという未曾有の水利システムが完成したことにより、台地西部では新田開発と人口増の時代が訪れます。
 もちろん玉川上水は、元来、巨大都市江戸の水利を第一の目的として開発されたものですから、当然、江戸市中も恩恵を受けるわけですが...流れてきた水は、最終的にはどこかに排水しなければなりません。用水路は排水路と一体となって整備されていくことになります。

 かなり長くなってしまいましたが、『「春の小川」はなぜ消えたか』でも細かく調査されているとおり、かつての谷と自然水系は、江戸時代には用水・排水系の中に組み込まれていくことになります。
 私たちが手にすることができる、東京、武蔵野台地のもっとも古い地形図=明治13年の迅速測図にあらわされている水路の多くは、実はそうした過程を経て整備されたものが大多数です。明治期以降の水量そのほかの地誌・水文の記録も、決して自然状態のものではありません。たとえば『新編武蔵風土記稿』の記述を見ると、台地東部のいまでは暗渠化されている諸河川の多くが、野川上流部などより川幅が大きく水量の多い「川」として記述されています。
 旧地形の復元には、地理・地形学だけでなく、現在観察される状態がどのような歴史的過程を経て成立したのかという土地利用史、景観利用史の観点も組み込まれなければなりません。


之潮の関連出版物


新版・川の地図事典 江戸・東京/23区編


江戸・東京地形学散歩・増補改訂版


川の地図事典 多摩東部編


by asiansophia | 2011-06-12 10:19 | 野川・多摩川/RegionalStudy